理学系の学科では自然界のさまざまな現象についてその根底にある原理を追究しようというのがその大きな目的です。その対象の違いにより数学、物理、化学、生物、地学などの分野に分かれています。大学では、高校までの各教科に比べ、学問の奥行きが大いに深まっていて、またそれぞれの教科がより密接に関係してきます。例えば、生物を研究する人にも物理の知識が必要となることがありますし、逆もまたあります。
理学の研究成果は工学のようにストレートに生活の向上につながるものではありませんが、多くの工学の基礎研究として必要不可欠なものです。新技術の可能性を根底から切り開いているのが理学だといっても過言ではないでしょう。
理学部は次のような学系に分けられます。
学系紹介
数学・情報学系
数学は形式科学と呼ばれるものの一つで、あらかじめ用意された記号(例;数字や図形、+-×÷)と規則(例;“+”二つの量を合わせる記号)に基づいて、そこから得られるまとまりをもった仕組み(例;定理や公式)を見つける学問です。
この学問は周囲から見ると非常に難解なうえ何の役に立つのか分からないように思いますが、実は現代の技術を支えてい最も基礎にあるともいえる学問です。数学の研究から得られた方程式の解法や空間に関する理論は、昔から物理学や工学研究において定量的な評価や予測などで非常に重要な役割を果たしてきました。また、ここ数十年のコンピュータの発達膨大な量の演算を可能とし、高度な数学を用いた数理モデルの近似解を得られるようになりました。これによって、高度理論による予測を立てることができるため、金融や薬学など幅の広い分野で数学は応用されています。数学者は数学の探究そのものを研究目的とすることが多く、応用面を意識したわけではないでしょうが、実は他の研究分野や社会全体を発展せる可能性を秘めています。
物理学系
物理学は自然現象の背後に隠れている普遍的法則の理解を目指しています。例えば、物体の運動ではそれが落下運動であろうと摩擦を伴う運動であろうと他の物体との衝突であろうと、物体に働く力が分かっていればニュートンの法則によってどれも同じような手続きで定式化され説明できます。それによって宇宙の惑星の運動などもかなり正確に予測できます。法則を見つけ出す・理解することは容易ではなく、研究の現場では注目する現象がみられる様々な物質や関連する現象について多角的に調べ、多くの研究者の結果を総合的に考慮して法則を見出すことを目指しています。
法則を理解することは様々な実験の予測を立てたり、新物質開発における方針を立てたりすることにつながります。また様々な技術開発においても重要で、身近なところでも活躍しています。例えば最近は携帯電話の地図機能で利用する人も多くなったGPSはアインシュタインの相対性理論がなくてはうまく機能しません。他にも医療の現場で用いられるMRIは量子力学に基づいた技術です。このように物理学で研究し、理解された現象や法則は意外なところで生活の助けになっています。
化学系
物質がどのような性質を持っているか、物質同士がどのように反応し変化するのかを研究するのが化学という学問です。すなわち化学は「物質の科学」なのです。また物質の性質を理解し、化学反応についても理解することで新たな物質の創造へとつなげることも化学の目的の一つです。物質は複数の原子が化学結合によって組み合わさることで構成されています。したがって、化学では原子の状態やそれらの結合の状態、原子の集合体である分子や結晶の構造などを調べることで、その物質の性質について理解することを試みています。具体的な研究手段は注目する物質によって様々ですが実験が主体です。試験管やビーカーに薬品を入れて混ぜるなど、一般的な科学者のイメージに近いのではないかと思います。注目する物質は金属や有機物といったある程度の塊としての“モノ”であったり、タンパク質や細胞さらにはDNAなどの構成単位にあたる“モノ”であったりと多岐にわたり、理学の根底となっています。そのため関連する分野も工学、薬学、医学、農学など多岐にわたり、創造性の強い性格が合わさって新素材開発やバイオテクノロジーなど応用性が高く、社会への貢献度が大きい分野です。
地学系
過去46億年にわたる地球の歴史や内部構造および現在問題になっている環境問題についての知見を得ることを目指す学問です。その起源は古代ギリシア時代にまでさかのぼり、長年にわたって研究されてきました。ウェゲナーのプレートテクトニクス理論やその後の研究により、地震のメカニズムや地形形成の仕組みがある程度説明できるようになってきましたが、まだ完全ではありません。地震学や気象学などの今後の発展は、地震予知や災害予防など私たちの生活にも利益をもたらすことが期待されます。地質学では、化石や岩石中の化学組成や放射性同位体を利用して、過去の地球の海水温や大気中の二酸化炭素量を推定し、未来の地球環境の変動を予測することも可能です。さらに、地球を太陽系の一部と考え、宇宙にまでその対象を拡大することもあります。たとえば、話題になった人工衛星「はやぶさ」による偉業も地球科学の知識なしでは達成し得なかったことです。このように、地球科学科でのそれぞれの学問分野独自の手法を身に付けると共に、分野横断的な幅広い知識を必要とします。
生物学系
長い年月に渡って受け継がれてきた生物の構造や生命現象の謎を追求する学問です。生物学は大きく二つに区分されます。
まず、ひとつは生物の進化の過程や動物個体の行動と生態系との関係を調べる、いわゆるマクロ系の生物学です。たとえば系統進化学、系統分類学、進化遺伝学などがこれにあたります。もうひとつは遺伝情報を伝えるDNAやゲノムの発現ネットワークの解明を目指す、いわゆるミクロ系の生物学です。細胞生物学、発生生物学、生理学などがこれに挙げられるでしょう。企業や一般社会では、利益や応用を求められ、再生医療や遺伝子治療、クローニング技術の開発にかかわる研究に目が行きがちですが、大学における生物学は基礎科学であり、即時に社会利用されるものではありません。しかし、基礎科学としての生物学は人間の好奇心を満たすものであり、そのような学問としての知識の蓄積が時として、意図しない偶然とも言うべき技術革新を生み出すものです。既成の枠にとらわれずに、創造的な視点で生命の不思議に向き合って研究できるのが大学の良さとも言えるでしょう。
主要国公立・私立大学学科設置一覧
大学 | 学部 | 数学・情報科学系 | 物理学系 | 化学系 | 地学系 | 生物系 |
東京大学 | 理学部 | 数学科 情報科学科 | 物理学科 地球惑星物理学科 天文学科 | 化学科 | 地球惑星環境学科 | 生物学科 生物化学科 生物情報科学科 |
東京工業大学 | 理学部 | 数学系 | 物理学系 | 化学系 | 地球惑星科学系 | |
情報理工学院 | 数理・計算科学系 | |||||
生命理工学院 | 生命理工学系 | |||||
京都大学 | 理学部 | 数理科学系 | 物理科学系 | 化学系 | 地球惑星科学系 | 生物科学系 |
大阪大学 | 理学部 | 数学科 | 物理学科 | 化学科 | 物理学科 | 生物科学科 |
基礎工学部 | 情報科学科 | |||||
神戸大学 | 理学部 | 数学科 | 物理学科 | 化学科 | 惑星学科 | 生物学科 |
大阪市立大学 | 理学部 | 数学科 | 物理学科 | 化学科 | 地球学科 | 生物学科 |
大阪府立大学 | 生命環境科学域 | (理学類)数理科学課程 | (理学類)物理科学課程 | (理学類) 分子科学課程 | (理学類)生物科学課程 | |
工学域 | (電気電子系学類)数理システム課程 | |||||
兵庫県立大学 | 理学部 | 物質科学科 | 物質科学科 | 生命科学科 | ||
奈良女子大学 | 理学部 | (数物科学科)数学コース | (数物科学科)物理学コース | (化学生命環境学科)化学コース | (化学生命環境学科)環境科学コース | (化学生命環境学科)生物科学コース |
岡山大学 | 理学部 | 数学科 | 物理学科 | 化学科 | 地球科学科 | 生物学科 |
環境理工学部 | 環境数理学科 | |||||
慶應義塾大学 | 理工学部 | 数理科学科 | 物理学科 | 化学科 | 生命情報学科 | |
早稲田大学 | 基幹理工学部 | 数学科 応用数理学科 | ||||
先進理工学部 | 物理学科 応用物理学科 | 化学・生命化学科 | 電気・情報生命工学科 生命医科学科 | |||
教育学部 | 数学科 | 理学科地球科学専修 | 理学科生物学専修 | |||
関西学院大学 | 理工学部 | 数理科学科 情報科学科 | 物理学科 | 化学科 | 生命科学科 生命医化学科 | |
関西大学 | システム理工学部 | 数学科 | 物理・応用物理学科 | |||
同志社大学 | 理工学部 | 数理システム学科 | 機能分子・生命化学科 | 環境システム学科 | ||
生命医科学部 | 医生命システム学科 生命情報学科 | |||||
立命館大学 | 理工学部 | (数学物理系)数理科学科 | (数学物理系)物理科学科 | |||
生命科学部 | 生命医科学科 | |||||
京都産業大学 | 理学部 | 数理科学科 | 物理科学科 宇宙物理・気象学科 | 宇宙物理・気象学科 | ||
総合生命科学部 | 生命システム学科 動物生命医科学科 | |||||
近畿大学 | 理工学部 | 理学科数学コース 情報学科 | 理学科物理学コース | 理学科化学コース | 生命科学科 | |
産業理工学部 | 情報学科 | |||||
甲南大学 | 理工学部 | 物理学科 | 機能分子化学科 | 生物学科 | ||
龍谷大学 | 理工学部 | 数理情報学科 | ||||
大阪工業大学 | 情報科学部 | コンピュータ科学科 | ||||
神戸女学院大学 | 人間科学部 | 環境・バイオサイエンス学科 | ||||
摂南大学 | 理工学部 | 生命科学科 |
★上記は一例です。