農学系は、自然環境の中で農作物をいかに上手にたくさん作るか、という問題を背景に発展してきた非常に古い学問領域です。農林業、畜産業、水産業など広範囲にわたって研究を行います。研究の手法として、農学の基礎となる生物学はもちろん、化学、工学、薬学、経済学などとも深い関係があり、総合科学とも言える内容を持っています。また、最近は農学系においてもバイオテクノロジーの研究が盛んです。例えば、遺伝子交換作物などの「食」の問題ばかりでなく、新しい医薬品や環境にやさしい(あるいは環境を守る)薬品の開発といった「医薬」「環境」などまで、研究対象が広がっています。これらの研究内容は人間の生存にかかわる課題であり、農学は未来社会の創造に多大な影響を及ぼしているといえるでしょう。
農学部は以下のように分類されます。
学系紹介
農学系
この分野の中心をなす「農学」では農作物の生産や品種改良などに関する技術を研究します。日本の農学研究は、食糧生産や品種改良のような応用面に加え、科学の進歩面でも世界に貢献してきました。研究対象は、地球環境や地域生産系といった大きなスケールのものから、個々の作物、そして昆虫や微生物、ウイルスなど小さなスケールのものまで、極めて広範囲にわたっています。最近では、生物の持つ機能を分子レベルで解明し生産性の向上を図る研究や、自然環境と人間の共存、自然環境の修復といった環境問題を主軸とした研究に力が注がれています。大学では講義のほか研究室での実験や、大学が所有する農場での実習などがあり、それらに占める割合が高いことが特徴として挙げられます。大学院へ進学して研究に携わる人も多いです。
農芸化学系
この分野の研究対象は①農産物生産についての化学(土壌学・肥料学)、②生産物の貯蔵・加工についての化学(食料化学・食品学)、③微生物を利用した食品生産についての化学(発酵学、微生物学)の3つに大別できます。近年、多くの大学でバイオテクノロジー関連の研究が活発化しており、さらに生物生産の仕組みの解明、新たな生物機能の開発・利用に主眼を置いた新しい学科も誕生しています。農芸化学を学ぶ学科で現在比較的多いのは、応用生物化学科、応用生物科学科、応用生命科学科です。これらはそれぞれ植物、動物、微生物を中心に、幅広い領域を対象とする学科で、生物の機能を解明し、生物資源を高度に利用するための研究を行っています。大学では、はじめに分子生物学や微生物学などの基礎的な分野を学び、その後フィールド実習やインターシップなどで実験実習を積むことが多いです。近年では学問分野の広がりに伴い、社会のニーズに答えうる人材を育成するには大学の4年間だけでは十分に対応しきれなくなっており、大学院へ進学する人も増えています。
畜産学・水産学系
畜産学は、家畜の飼育や繁殖の研究として、食料・皮革・医薬品などの畜産物の品質と、生産効率を上げることを目的とした学問分野です。産業動物には牛・豚・鶏などの食肉用の畜産だけでなく、羊(毛)から蜂(蜜蜂)、蚕(絹糸)までが含まれます。今日では野生動物の生態系保存や新たな実験動物の開発、さらに※伴侶動物の生産・利用などの研究、畜産物の流通に関わる国際的な経済対策や環境問題の考察も行われています。
水産学は大きく4つに分類されます。「水産資源学」では、漁場、魚群の行動、餌料などについて研究します。「水産環境学」は海に生活する動植物の生態や海洋の生産力などについて研究します。「水産増養殖学は、海洋生物の身体や遺伝の仕組みを調べて水産物養殖の技術を研究します。「水産化学」は、水産物の化学的性質の分析、加工品の製造、保存技術を研究します。博物館学芸員、食品衛生管理者などの資格が取得できます。
※ 従来では所有物扱いのペットに対して、生活して行く上での伴侶などとする、より密接な関係を人間と持っている動物を指す
農業工業学系
農業工業は、環境保全と食糧の確保および食の安全のための農業生産・食糧管理の技術、そして環境や生態系を視野に入れた土地利用や水資源利用の技術、農村地域社会の健全な発展のための計画手法などを学問対象にしている総合的で実践的な学問分野であり、自然科学的・工学的・生態学的及び、社会科学的視点から技術と地域社会の健全なあり方を探求します。土木工学を中心に測量学、材料工学、構造力学など工学の基礎的知識を身につけた上で、専門分野を学習する事になります。かつては農業工学科が代表的な学科でしたが、研究対象の拡大に伴い各大学で学科が再編され、現在では様々な名称の学科が設置されています。主に農業機械、工業土木のほか、生態系の保全や,自然と共生しながら持続的な生産を行うための農業基盤や農業システムについて研究を行います。
農業経済学系
農作物の生産から流通、消費に至る全過程、およびそれに関わる国内的課題、国際的課題、環境問題を社会科学的に研究します。カリキュラムとしては、まず経済学と統計学、農学といった基礎的分野を学んだあと、農政学、農業経営学など専門的な理論に進み、さらに比較農業論、農村計画学などの応用・周辺分野を履修します。この分野では、現地調査や聞き取りを多用し、地球の問題点を肌で感じるフィールドワークが重要です。農業経済学系は、農学系統の中でも社会科学的な色彩が濃い内容になっており、文系、理系のどちらからでもアプローチが可能な研究分野です。言い換えれば、文系の学生にとっては農学など自然科学を、理系の学生にとっては経済学など社会科学を新たに学習する事が必須となります。戸惑いもあると思いますが、それだけにチャレンジングな学問領域であるといえます。
森林科学系
森林科学は、動植物の生態に関する分野、木材の利用、治山治水、森林政策など、多様な学問分野の集合体です。森林の営みに即した、「持続可能な資源利用」や「自然との共存」が森林科学の基本理念となっています。森林の存在しない環境では人間は生きていくことができません。森林科学科では森林の総合的な把握の必要性や社会の多様な発展に対応できるような専門知識と技術を身につけた人材を育成することを目的としています。大学によって異なりますが、森林資源の有効利用を図る講座や、森林の持つ多様な機能を解明し、森林の保全や利用を研究する講座を設けているところが多いです。演習林を持つところがほとんどで、植物調査・測量・計測といった実験、実習、演習に重点を置いた教育を行っております。
農学系学部のある主な大学・学部学科一覧
大学 | 農学系 | 農芸化学系 | 畜産学・水産学系 | 農業工業学系 | 農業経済学系 | 森林科学系 |
北海道大学 | 生物資源科学科 応用生命科学科 | 応用生命科学科 生物機能化学科 | 畜産科学科 (水産学部) ・海洋生物科学科 ・海洋資源科学科 ・増殖生命科学科 ・資源機能化学科 | 生物環境工学科 | 農業経済学科 | 森林科学科 |
東京大学 | (環境資源科学課程 緑地環境学専修 国際開発農学専修 | (応用生命科学課程) 生命化学・工学専修 | (応用生命科学課程) 動物生命システム 科学専修 水園生物科学専修 (環境資源科学課程) フィールド科学専修 | (環境資源科学課程) 生物・環境工学専修 | (環境資源科学課程) 農業・資源経済学 専修 | (応用生命科学課程) 森林生物科学専修 (環境資源科学課程) 森林環境資源科学 専修 木質構造科学専修 |
京都大学 | 応用生命科学科 食品生物科学科 | 食品生物科学科 応用生命科学科 | 資源生物科学科 | 地域環境工学科 | 食料・環境経済学科 | 森林科学科 |
神戸大学 | 資源生命科学科 | 生命機能科学科 | 資源生命科学科 | 食料環境システム 学科 | 食料環境システム 学科 | |
京都府立大学 | 農学生命科学科 | 生命分子化学科 | ||||
大阪府立大学 | 緑地環境科学類 応用生命科学類 | 応用生命科学類 | ||||
岡山大学 | (総合農業科学科) 応用生物科学コース | (総合農業科学科) 農芸化学コース | (総合農業科学科) 応用動物科学コース | (総合農業科学科) 環境生態学コース | (総合農業科学科) 環境生態学コース | (総合農業科学科) 環境生態学コース |
鳥取大学 | (生命環境農学科) 植物菌類生産科学 コース | (生命環境農学科) 農芸化学コース | (生命環境農学科) 国際乾燥地農学 コース | (生命環境農学科) 里地里山環境管理 学コース | ||
近畿大学 | 農業生産科学科 環境管理学科 | バイオサイエンス 学科 応用生命化学科 | 水産学科 | |||
龍谷大学 | 植物生命科学科 資源生物科学科 | 食料農業システム 学科 | ||||
神戸女学院大学 | (人間科学部) 環境・バイオサイ エンス学科 |
獣医学系
獣医学科のある大学・学部学科一覧
獣医師になるためには、獣医系のある大学で6年の獣医学教養を履修し、農林水産省の実施する獣医師国家試験に合格する必要があります。獣医系の学部のある大学は、国立10大学、公立1大学、私立5大学の16大学(2017年度)しかなく、かなりの難関です。
主な大学 | 第68回獣医師国家試験 | |||||
大学 | 学部 | 学科・課程 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 | 順位 |
北海道大学 | 獣医学部 | 共同獣医学課程 | 38名 | 33名 | 86.80% | 11位 |
帯広畜産大学 | 畜産学部 | 共同獣医学課程 | 42名 | 35名 | 83.30% | 13位 |
岩手大学 | 農学部 | 共同獣医学科 | 36名 | 33名 | 91.70% | 3位 |
東京大学 | 農学部 | 獣医学課程 | 31名 | 25名 | 80.60% | 16位 |
東京農工大学 | 農学部 | 共同獣医学科 | 38名 | 35名 | 92.10% | 2位 |
岐阜大学 | 応用生物科学部 | 共同獣医学科 | 30名 | 27名 | 90.00% | 4位 |
鳥取大学 | 農学部 | 共同獣医学科 | 40名 | 36名 | 90.00% | 4位 |
山口大学 | 共同獣医学部 | 獣医学科 | 30名 | 26名 | 86.70% | 12位 |
宮崎大学 | 農学部 | 獣医学科 | 26名 | 23名 | 88.50% | 9位 |
鹿児島大学 | 共同獣医学部 | 獣医学科 | 33名 | 27名 | 81.80% | 14位 |
大阪府立大学 | 生命環境科学域 | 獣医学類 | 45名 | 40名 | 88.90% | 7位 |
酪農学園大学 | 獣医学部 | 獣医学類 | 138名 | 124名 | 89.90% | 6位 |
北里大学 | 獣医学部 | 獣医学科 | 132名 | 117名 | 88.60% | 8位 |
日本獣医生命科学大学 | 獣医学部 | 獣医学科 | 80名 | 74名 | 92.50% | 1位 |
日本大学 | 生物資源科学部 | 獣医学科 | 138名 | 112名 | 81.20% | 15位 |
麻布大学 | 獣医学部 | 獣医学科 | 151名 | 132名 | 87.40% | 10位 |